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ガ島挺身攻撃隊

10月10日、9時、前甲板に総員集合を命じた先任将校林大尉からの伝達は、
明朝出撃して旗艦五十鈴に従い、15駆逐隊と共に3戦隊のヘンダーソン飛行場(ガダルカナル島)砲撃の護衛に当たることになった。
  ※ 軽巡『五十鈴』 (神通に代る第2水戦旗艦)の写真へ
これは「皇軍の名誉にかけてガダルカナルを奪還せよ」と言う聯合艦隊の至上命令である。
今回の出撃任務を「島艇身攻撃隊」と命名された、文字通り殴り込み決死隊である。
只今から武器弾薬を残して当座不要な物は全部夏島の4根*よんこん予備艦倉庫に陸揚げする、『武人として恥ずかしくない最期を飾るよう身の回りを整理して出陣するように』
と言う事だった。
聞いているうちに体がぶるぶる震えているのに気付いたが、怖じ気づいたのか、武者震いしているのか自分にも判らなかった。
古参兵たちの受け止め方も一様では無かったようだが、ともあれ、各科ごとに陸揚げ作業にとり掛かった。
航海科では陸揚げ品も少なく、各自の衣嚢の外はスペアの旗旒や、航海日誌・軍艦旗・帆布等の小物で、作業はヤマと2人だったので3時間程で終わり、カッターの帰り便を待ちながら2人は無言のまま両手を枕にして椰子の木陰に寝転んだ。
ふと、ヤマがつぶやく、「あーぁ、みんなオジャンか・・・」
『うーん、2人とも死んでしまうのかなぁ、出来ればどっちか1人は生き残りたいなぁ』
「うん、若し俺の方が生き残ったらこの事をお前んのお袋さんに詳しく報告するよ」
『ん、俺が生き残ってもきっとそうするよ』
2人は身ろぎもせずに空を見詰めていたが、やがて、どちらからとも無く立ち上がって、「愛馬花嫁」を口ずさみながら歩き始めた。
この動作は、まさしく死を覚悟した18才の少年が少しでも心の動揺を押さえようとする精一杯の仕種しぐさであったように思う。
翌10月11日、10時、24駆逐隊はトラック基地を出撃、進路90度、速力20ノット。
15駆逐隊の親潮・黒潮・早瀬と24駆逐隊の海風・江風は前路警戒隊として対潜*たいせん脅威きょうい投射とうしゃを行い、陽炎かげろうと涼風は補給船、健洋丸・日本丸を護衛しながら共に之字運動の航行で作戦行動に就いた。
13日、3時、挺身攻撃隊に合流、司令官栗田健夫少将座乗の第3戦隊旗艦金剛の指揮下に入った。
ここで進路を175度に変針したのち速力30ノットに増速。
高速巡洋戦艦、金剛・榛名は、第15駆逐隊(陽炎欠)と第24駆逐隊に護られて一路ガダルカナル島にまっしぐら。
4時45分、第2艦隊司令長官近藤信竹中将より、
『天佑ヲ確信シ奮闘セヨ貴隊ノ成功ヲ祈ル』
の激励電波を受信。
攻撃隊は、23時、ガダルカナル島ルンガ湾泊地に事無く侵入した。
23時、先ず、攻撃隊からヘンダーソン飛行場上空に照明弾を数発発砲した後、23時37分、射撃開始。
  ※ 巡洋戦艦『金剛』 (第3戦隊旗艦)の写真へ
金剛・榛名、夫々2連装4基8門の36センチ口径の巨砲が一斉に火を吹いた。
使用した新型の散式弾は、目標の上空で千メートルに亘って散乱すると言う事だったが、数分も経つと飛行場の上空は茜色に変わっていった。
虚を衝かれた敵さんは飛行機の離陸が出来なくなり、ルンガ岬の陸上砲台から照明弾を打ち上げて発砲してきた。
驚いた事にこの照明弾の明るいこと、攻撃隊のそれに比べるとまるで蝋燭の明かりと100ワットの光、それに照射時間も優に3倍は長い。
ルンガ泊地は一時真昼のように明るくなったが、榛名副砲の一撃で陸上砲台は鳴りを潜(ひそ)め、どこからとも無くめくら撃ちのような砲弾が飛んでくる。
飛行場は燃え盛る炎に包まれて金剛と榛名が影絵のように浮き出され、加熱した両艦の砲身が赤い箸のようにはっきり見える。
駆逐隊群はこれを取り囲むように護衛を続けながら、飛行場が誘爆の炎を吹き上げる度に大喚声が上がる。
この間、江風と黒潮から『敵魚雷艇らしき艦影と複数の雷跡を認めた』と言う報告があったが海風では確認できなかった。
10月14日、1時、金剛から「打ち方止め」の命令を受信。
この間死闘83分、撃ち込んだ砲弾、金剛、435発、榛名、483発、(3分ノ1は散式弾)心なしか砲身が弧を描いたように曲がって見える。
1時10分、攻撃隊は敵の無抵抗を確認して帰途についた。
針路0度、速力29ノット。
36,000排水トンの巨艦2隻は長い航跡を曳きながらガダルカナル島を後にした。
5時57分、3戦隊司令官(攻撃隊指揮官)より、
『天佑ノモト隊員一同ノ奮戦ニヨリヨク攻撃隊ノ任務ヲ全ウシ得タルハ本職ノ最モ満足トスルトコロナリコノ後ニ及ブモ益々警戒ヲ厳ニシテ一層ノ奮闘ヲ望ム』
の発光信号を受信。
続いて陸軍部隊からの、『総攻撃成功、飛行場奪還』の無線電波を傍受。
更に、11時、には第2艦隊司令長官より、『挺身攻撃隊ノゴ成功ヲ祝シ司令官以下ノ労苦ヲ多トス』の祝電を受信。
「何だそんなに簡単におちたのか、これじゃあ決死隊なんて騒ぐ程の事はないじゃないか」
情報が入る度に艦内は喜びに沸き立っていたが、間もなく旗艦金剛からこれを戒めるような信号が届いた。
『味方潜水艦カラノ情報ニヨレバ敵機動部隊接近ノ兆シアリ各艦一層対空対潜警戒を厳ニセヨ』
この情報が直ちに各戦闘配置に伝達されると、間もなく戦闘食*せんとうしょくが配られ、夫々戦闘配置に就いたまま司令も艦長も普段は口にした事のない麦飯の掬びと肉ジャガを美味しそうにパクついていた。
信号員たちも20センチ望遠鏡を覗いたまま握り飯をモグモグやっていると、突然暗号員が翻訳した電文を持ってけたたましく駆けあがってきた。
電文を受けとった司令は無言で見入っていたが、やがて唇を噛み締めながらこれを艦長に渡した。
艦内の喜びも束の間で、敵は荒れ果てた飛行場を応急復帰して大量の艦載機を強行着陸させ、飛行場は再び敵の手中に陥ちたと言う報せだった。
間を置かず旗艦金剛からの信号は、
『24駆逐隊ハ直チニ分離シ5戦隊ト合流シタル後ソノ前路警戒ノ任ニ当タルベシ』と言う命令だった。
12時15分、金剛の掲げる『第24駆逐隊ノ武運ヲ祈ル』の旗旒信号に送られて海風と江風は攻撃隊の隊列を離れ、5戦隊(妙高・那智・足柄・羽黒は欠)との合流地点に向かった。
翌15日、12:45、5戦隊と合流、22時10分、再びルンガ泊地に突入した。
  ※ 重巡 『妙高』 (第5戦隊旗艦)の写真へ
この夜、五戦隊と共に飛行場の砲撃に当たったが、妙高・那智の20センチ口径と駆逐隊の12.7センチ口径の砲撃では三戦隊のそれに比べると格別の戦果は得られ無かった。
10月18日、24駆逐隊は挺身攻撃隊の任務を解かれ、洋上給油を受けた後、前進部隊に復帰してソロモン海域で遊弋警戒に当たることになった。


  • ガ島挺身攻撃隊・・・ガ島作戦の失敗により立ち消えになって終ったが、当時では切込み決死隊の走りとも言える殴り込み攻撃隊で、ガ島攻略戦の圧巻と言っても過言ではない。防衛研究所の3戦隊戦記にはその一部始終を地図入りで克明に記した資料が残されている。
  • 第15駆逐隊・・・親潮・黒潮・早潮・陽炎の4艦で編成された駆逐隊で第2水雷戦隊の1番隊(24駆逐隊が2番隊)
  • 対潜脅威投射・・・潜水艦に脅威を与えろため航路に爆雷を投射する。
  • 四根・・・第4根拠地隊(第4艦隊の根拠地)トラック諸島の夏島に司令部があった。
  • 戦闘食・・・戦闘配置に主計兵が配食して夫々が配置に就いたまま食事をする事で、戦闘配食という。

  • 挺身攻撃隊がヘンダーソン飛行場に撃ち込んだ不発弾の一発(徹甲弾)を戦後現地視察に行った衆議院議員のN氏が持ち帰って江田島の旧海軍兵学校記念館横に説明の名盤と共に記念碑として残されている。この名盤には、15・24駆逐隊の他に31駆逐隊(長波・高波・巻波)が参加したと記されているが、筆者にはその行動に付いては記憶に無く、敢えて記憶のままに記した。


  • 『砲弾の戦歴』の石碑
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    砲弾と著者
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