ご挨拶


夏になるとメディアによって戦争が度々とりあげられるようになります。殊に今年は終戦六十周年ということもあって、いっそう激しかったように思います。
戦後(それもかなり時間がたってから)生まれ、の私にとって戦争は、どこか遠いものでした。テレビや映画、小説等で取り上げられる戦争は、どこか作り物めいていて、実感を伴わないふわふわした印象がありました。すぐ近くにあるはずなのに決して破れることのない薄い膜の向こうを覗こうとしている感じとでも言ったらよいのでしょうか。
小学生の頃、国語の教科書に毎年一編づつ載っていた戦争を扱ったおはなしは、読むたびに私の涙を誘いましたが、今にして思えばそれですら、よくできたフィクションのように感じていた気がします。
はじめて、『海風とわが青春』を読む機会を得たのは今年の春先のことでした。断片的におはなしを伺う機会はこれまでもあったのですが、印字された文章はかなりのボリュームがあり、またそれ以上にその内容の重さに圧倒されました。
『海風とわが青春』は、淡々と書かれています。脚色や大げさな表現、感傷に流されることも読者にこびることもない文章はそれでいて、ひたひたと胸に迫るものがありました。資料で裏打ちされた、記憶を忠実になぞらえていく文章は私に、戦争というものを実感させてくれたのです。
冊子にまとめられた『海風とわが青春』は部数も少なく、目にする人も限定されていたようでした。
「ネットに載せることが出来たら、もっとたくさんの人に読んでもらう機会が得られるのではないか?」
戦争の話題がテレビで取り上げられるのを目にする度に想いは膨らんで、掲載の許可を頂いたのは、終戦記念日も過ぎたある日のことでした。

たくさんの方に読んでいただけること、そして読んで頂いた方の心に残ることを願っています。


平成15年8月

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